日本のロータリークラブの誕生(その1)
その人物と思想と背景
私達はいずれかの職業についていて、その職業を通じて社会に貢献し、又 職業によって生かされていますから、職業によって貴賎上下がないというのはその意味からです。
処が西洋でも日本でも昔は人の携る職業によって貴賎上下いやそれ以前に身分関係に差別がありました。
これを日本の職業について当てはめてみると、士農工商といって昔から物を作る人や商人は社会の中でも身分は低いものとされ特に貨幣経済、流通経済など認知度の低さから、商人の地位は最低と考えられてきました。理由は物や金を動かすだけで労力を使わずに金儲けをし贅沢をするからです。
武士は国を守り統治する役人だから領主に次ぐ最上位。百姓は武士の俸禄を米という形で作り提供するから2番目。工はその百姓が米を作るに必要な道具や小物、或は武士が国を守り身を守る為の刀や武器、それに家庭生活での必需品を作るので3番目。
そして商人は何も作らないから4番目。武士は知行地(支配地)からとれる米の40%を年貢米として取立ても、世の中が貨幣経済の中に組み込まれると米を金に替える必要があり、その為に大阪では堂島、江戸では日本橋 蔵前に米問屋が出来ます。
武士も領主も(大名)米がとれるまでつなぎの資金として金を借り、借金が返せなくなって大騒動を起こしたり、交通の発達によって各地の物産が全国に行き出来るようになると、嫌でも商人の力を借りなければ生活が出来なくなり、その為の金の決済の両替商が出来るなどして、現在私達が経験しているような経済の仕組みが出来上てきます。こうして商人の地位が上がってきたのですが、、、。
今から約2500年前、中国の思想家老子は「秦よく剛を制す」という後に日本秦道の極意ともなった「人間は生まれたら良い性質をもっているだから」という「性善説」をとなえます。この理論からいうと生まれたらの悪徳商人はいないということになります。
しかし約2200年前には荀子という思想家が現れ人間は生まれながら悪い性質をもっているので、それを「鍛え直さなければ駄目」という「性悪説」をとなえます。
つまり今流に云えば元々良い商人などいる訳はないのだから良い商売をするように教育をしなければ駄目ということになります。
社会の安定を経済の安定に置換えるならば、その為には商人の人格を先ず磨かなければならないと説いたのです。
その荀子が帰と拝いだのが有名な論語の主、儒教の祖孔子です。孔子は老子の思想に感化されたといわれています。2450年前の書、論語は「人の道」親、子、友人、自然統治全てに於いて人として持たねばならない「愛」を説いた書物でそれを仁と呼びその思想は今日まで受け継がれています。
特に江戸時代はこの論語を含めた、大学、中庸、論語、孟子、易経、書経、詩経、春秋、
礼記の書を読み理解することが武士の教養とされ、徳川幕府による統治の基となりました。
さて、日本では17世紀から18世紀にかけて京都の商家の小僧をしていてのちの儒教となった、石田 梅岩が現れ。人間には人間としての道、即ち人類愛があって、やって良いことと悪いことの区別があるように、商人にも「商人道」があると説きました。
彼は先述の老子、孔子論語、孟子等、四書五経を独学で学び遂に学問とは知識を学ぶものではなく、その心、即ち人類愛のような人間の道を学ぶもとにあるとして、夫を「心道」と名付けました。その結果、商人は社会を富ませる為に「道」にそむかず、それに叶った商行為で得た利益は武士が殿様から貰う俸禄と同じで決していやしいものではないと解いたのです。
この石田梅岩の言行録、質問に答える形で書かれた書物は「都鄙門答」として、江戸時代末期、明治、大正、昭和に至るまで商人のバイブル、聖書として、日本全国で読み語り継がれました。何故なら、それ迄の教養書は全て漢文体で書かれていたのに始めて、今日の私達が読むような「仮名文字交じり」で書かれ寺子屋で学ぶ丁雅にも読むことが出来たからです。
明治の元勲西園寺公望公爵の孫で平成5年1993年に亡くなった最後の貴族元公爵
西園寺 公一氏の座右の銘はこの石田梅岩の「在学其心」「その心を学ぶに在り」であったことを考えると、石田梅岩の心は平成の現代まで続いたといえるでしょう。(座右銘 真野 博 蔵)
キリスト教のバイブル、聖書がキリストの言葉のとして書かれているように、石田梅岩の言葉で書かれた書商人道の一道は今日の経済活動のバイブル指針ともいえるのです。
彼は商人道についてこう述べています。「自分が一銭も大事にする気持ちから推量して、売るものを大切に扱い少しも粗末にしないで売り渡せば、買う人もはじめは払う金は惜しいと思っても、買ったものが役に立つので、そのうち惜しくないと思うようになるでしょう。金銭を惜しくないと思う心が起きれば、それは人々を善に導くことに外ならないでしょう。その上国の貨幣や物資が流通して、すべての人々を満足させられるのですから」ロータリーの精神である「職業奉仕」その結果生まれる人心の安定と経済の活性化がもたらす国の安定を300年以上も前に解り説いているのです。
そしてこの言葉こそが今日の日本のロータリーを誕生させた基になっているのです。
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