平成21年1月
真野 博 記
2007年 手続要覧から見えるもの
ロータリーの資的変化の一考察
40年以上もロータリアンであり続けると、組織というものが時代、時代によって除々にではあるが大きく変わるものであることに気がつきます。
① ロータリーの目的
私が真先に注目したのは「会員増強」の頃に書かれている最も重要な「ロータリーの目的」の変更でした。
2004年版
ロータリーの目的の本質は、個人による奉仕の理念の実践という責任の受諾にある。
2007年版
ロータリーの目的の本質は、個人による奉仕の理念の実践を受諾することにある。
奉仕の理想・追及・行動はあくまでも個人の責任に帰せられるべきものであると永年に亙って教育され実践されてきました。
しかし「個人の責任」という字句を取り掃うことによって、ロータリアンはクラブ或いはRIという組織の中で奉仕活動を行うものであって組織の中の個人による奉仕活動には責任は無いということです。
考えてみれば当然なことで、組織として行う奉仕活動に個人として参加した結果生じる事柄に対して責任を負うのは個人ではなくて組織だからです。
今迄は、個人の責任によって奉仕の理想を追及し行動することによって、ロータリーという組織の一般社会への認知度、ステイタスを高めてきました。時には個人の能力を超えた手間、暇、金のかかる苛酷なものでしたが、それを乗り越えてきたのがシニアと云われる古いロータリアン達でした。
俗な言葉を用いれば「せーの!!で皆と一緒にクラブの奉仕活動に参加し、終えればその結果はクラブの責任によって判断される」ということでしょう。奉仕というのは元来個人が責任を持って行うことなのですが…。
② 継続性を求められるクラブの奉仕活動
個人が責任をもって行動してきた奉仕活動、それがクラブ単位で行う場合にも制約がありました。
2007年版
新しく導入されたクラブリーダーシッププラン(CLP)では…。
地元地域社会並びに、他の団体との地域社会のニーズを取り上げた奉仕プロジェクトを実践成功させる。
今迄の単年度主義の表現であった「毎年度何か一つ」「毎年度異なって」「その会計年度」という表現は消えました。
その代わりに「他団体との…」という表現に見られるように、ロータリークラブの枠を超えたより幅の広い所に奉仕活動の場を見たし実施成功させることを求めているのです。
③ 会長に求められるもの
ロータリークラブのリーダーは会長です。指導者は一応会長と考えられます。
効果的なロータリークラブの定義では
2004年版
クラブの枠を超えてロータリーに奉仕する能力のある指導者を育成する。
2007年度版
クラブの枠を超えてロータリーに奉仕出来る指導者を育成するとして、地元社会、他団体とのロータリーの枠を超えた奉仕活動をする能力ではなく、実行出来る資質が問われるようになりました。
その為にもクラブ役員と理事会の項では
2004年版 さらにクラブ会長は
2007年度版 さらにクラブ会長は以下を備えるべきである。と資格にまで言及し
2004年度版 自己のクラブの定款細則に関して役立つ知識を有する者
2007年度版 自己のクラブの定款細則に関する業務的な知識を有する者
と役立つ知識から業務的な知識と目に見えるものを求めました。
これは 国際ロータリー定款第5条会員 第2節 クラブの構成
Aの①一般に認められた有益な事業または専門職務の持主
共同経営者(パートナー)法人役員または支配人であるか、または…
Aの②あるいはその地方代理店または支店において、裁量の権限ある管理職の重要な地位にあること 以下略
という会員の資格で述べられているように自分の所属する、或は自分の持つ職業を成功に導いたのと同じ「業務的な奉仕活動に対する知識」を要求するようになりました。
ロータリークラブの会員はその入会資格に於いて「業務的な知識」をもって自己の職業を成功に導いた人ばかりなので、とりたててこのような表現をする必要はないし、その意味からすれば会長職は順送りで誰がなってもよいと思われるのです。
しかし、それが他団体、地域社会とのかね合いとなると、又違った「業務的な知識」が要求されると考えるべきなのでしょう。
④ 会員の資格まで替えた定款
奉仕活動の業務的な知識を持つことが指導者、会長の資格条件であるならば、他の奉仕活動を成功させた実績をもつ地域社会に暮す人物を放っておく手はありません。
国際ロータリー定款 第5条会員 第2節クラブの構成
Aの④に今迄に無かった項目が加わりました。
2007年版④
地域社会の活動に自ら参加することによって奉仕及びロータリーの網領への献身を示した地域社会のリーダーであること 以下略
2-3のロータリークラブの意見は…
「若しそのような人物がいれば、我々はとっくに勧誘し、ロータリーの会員になってもらっていますよ」
「地域の社会奉仕活動には多かれ少なかれ金がかかります。私達はその為ロータリーに資金援助をお願いしているからです。一年で数十万余の金を会費として払うのならば、5万余でも10万余でも自分の奉仕団体に寄付をしますよ。ロータリーさんに資金援助なんかお願いしませんよ。」
それでも努力して(4)項に適する人を探そうという訳です。
それにはロータリーが、そのリーダーにとってより魅力のあるものにならなければいけないのです。
⑤ 奉仕活動のむずかしさ
ロータリークラブが奉仕団体に毎年補助金を出してその活動を支援する。大変響きの良い言葉です。
例えば5つ団体に2万余づつ計10万余の補助金を出したとしましょう。
1923年の声明の通り「会計年度に完了」出来れば問題はありません。
しかし次年度も…と継続性を持たせてしまうと、その出費に見合うだけの会員の在籍、会費の徴収とがあれば問題はないのですが、若し会員が減ってしまうとその予算は組めなくなります。仮に奉仕団体がロータリークラブや他の団体からの補助金、或は賛助金で活動しているとすれば、その奉仕団体の活動を阻害することになります。
東京目黒ロータリークラブは初代会長の意向で、そのようなことを招かない為にも「補助金は出さない」という方針を貫いてきました。
政府機関、自治体への備品の寄贈も断り、簡単に考えて寄贈を請負ってきた会員は責任をとって退会した例もありました。
これ等の備品は其々の機関の予算で賄うのが筋だという理由でした。
又、記念のモニュメントや、一般の人の便宜に供する設備の寄贈も「あとあとのメンテナンス迄きちんとしないと、残骸をさらけ出し、ロータリーの名を汚す」と実例を引いて説明されました。ロータリークラブにあって奉仕とは「あくまで個人の責任によってなされるものであって、クラブでするものではない」という理想が貫かれてきたのです。しかしそれも変わりました。
⑥ ポリオの撲滅運動がきっかけでロータリーが変わった。
今迄述べてきたように2004年と2007年の手続要覧を詳細に検討すると、いわゆる社会奉仕に関する1923年の声明決議(23-34)では説明出来ない問題点が浮かび上がってきました。
それがRIが音頭をとって始めた、ポリオの撲滅運動でした。世界保健機関、国際児童募金、国連科学教育機関と手を組んで1973年3Hプログラムという名称で、フィリピンから飢餓、貧困、病気をなくそうという運動に、1979年ポリオの撲滅運動が加わりました。RIのポリオ撲滅キャンペーンは5年間でフィリピンの子供達からポリオをなくそうというもので、5年後の1984-85年度には正式に3H運動にポリオ撲滅運動を加えるというポリオ・プラスが採択されました。
フィリピンだけでなく今度は世界中から、ロータリー誕生100年目の2005年目迄にポリオを追放する為、世界のロータリアンから2億4,700万ドル(1$100余として247億余)に基金を集める運動を始めました。
しかし残念ながら、その達成率は99%でした。残る1%の完全撲滅の為、ビルゲイツ財団は1億ドル(100億余)の補助金を提供する代りに、RIもそれと同額の補助金をチャレンジすることになりました。
野性のポリオウィルスの残る、アフガニスタン、インド、ナイジェリア、パキスタンの子供達への予防接種活動支援金となる1億ドルの同額補助金を引きうけた、ロータリー財団は世界中のロータリアンに年間一人に3000円、3年間で1億ドルを達成する政策を決定、実施しているのです。
社会奉仕に関する1923年決議との矛盾
RIのこの運動は1/4世界紀に亙る、単年度主義を標楴してきた決議(23-34)の決議と矛盾することは誰の目から見ても明らかです。
ロータリーの友に書かれているように、ハーバード・Aピグマン元RI事務総長は、その著書「ポリオに打ち勝つ」でこのことを指摘しているそうです。
その為、決議(23-34)は最早、ロータリーの社会保障を規定するものではなくなったと、現職のエドウィン・フタRI事務総長であり元RI副会長、ポリオプラス委員会名誉委員長でもあった氏が、決議(23-34)を手続要覧から外す提案をRI理事会に行ったのでした。
2007年度の手続要覧を見ると、この決議(23-34)は残っていますが、その為に尽力された日本選出の2007-2009年小沢一彦氏、2006-2008年の渡辺好政両理事の苦労は察するには余りあります。
幸い2007年版手続要覧には決議(23-34)は残りましたが、いわば一つの憲法の中に2つの違った条文が記載されていることになり、その矛盾を解決する為に
もいずれ決議(23-34)は「歴史的な社会奉仕活動のRIの取組みはこうであった」と歴史の中に組込まれ視界から消える運命にあるのでしょう。
⑦ ロータリーの標語
それにつけても思い出されるのは、一度は消えたロータリーの標語
He Profits most who serve best 「最も奉仕する者は最も報われる」です。PROFITS プロフィット(利益)という言葉が奉仕団体であるロータリーにとって相応しくないと理由から削除されたのですが、これも日本から出ている理事の努力で復活しました。日本を含む東洋では古くからこれに似た言葉が数多く語り継がれ、書物に残されるなどして道徳的規範とされてきました。筆者が中学生の頃学んだこと。それは江戸時代武士の若者は中国の四書五圣という書物を学び、東京神田お茶ノ水にある神田明神、その側の湯島聖堂で試験があり、それに合格して始めて一人前の武士として認められると同時に、出世の糸口になったというものでした。今でいう国家公務員上級職試験みたいなものだったのでしょう。
お隣の中国、韓国では科挙と云っていました。
その中の「易圣」という書物紀元前700年前に書かれたこの書物は単なる「占い」の本ではなく、人はどうあるべきか、どう生きるべきか等、人の道行いを実践論理の面からとらえた本です。
この占いには「乾と坤」の2つがあって、このうちの「坤(コン)」は柔よく剛を制す」の例えの通り、内に秘めた見えない力が、どのような頑固なものをも打ち砕くという理論の集大成です。この中にあるのが、次の有名な言葉です。
「積善の家必ず余慶有り、積悪の家必ず余殃(オウ)有り」読んで字の通り、善いことを積重ねれば必ず良いことがあり、悪事を積重ねれば必ず孫子の代迄たたりがあるという意味です。
日本の謡曲(ウタイ)蔡上の段には「情は人の為ならず」というくだりがあり、これも先程と同じ意味です。「天にツバする者は己れにかえる」等々に教育を受けたものです。
一方ロータリーの標語の原点を探ると、紀元前8世紀にその編集が始り紀元100年頃正典化されたといわれるキリスト教の旧約聖書 箴言第12章の「人の手の業はその身に還るべし」という教えからとったと思われます。
その英文を読むと「人はその手の働きによる正当な報酬を受けるべし」となります。
一方は農業を中心とした精神面を重視する東洋の哲学も一方は農業形態の違いから、早くから商業、手工業、流通業、貨幣経済の発達という、実務的な西洋の哲学も、形、表現の仕方こそ違えその云わんとしている処は同じと云えます。
そして、このロータリーの標語が残り、復活したということは東洋的哲学を欧米人が理解をした結果ということが出来るでしょう。
⑧ RIリーダーシッププラン?
RIのリーダーシッププランとも云える強い指導力を発揮、又条文の上でも表現したのが2007年度版の手続要覧です。
CLP,DLPと数多くのロータリー強化策を打出したにも拘らず、その根源となるロータリーの奉仕活動の基本は厳守するという意思表示が手続要覧の冒頭に持ってきた、四大奉仕部門の記述です。
ロータリーの四大奉仕部門は全ロータリークラブの活動の指針となる。
クラブ奉仕、職業奉仕、社会奉仕、国際奉仕、この四大奉仕部門を効果的にする為に新しくCLPを導入し、第一章ロータリークラブの3頁目にその項目を設けています。従来の各ロータリークラブの定款、細則、委員会構成、活動計画も現在のRIが最も重要視していて、わざわざ冒頭に揚げた四大奉仕部門をより効果的に実践的に行ってきた結果であると自認するロータリークラブが新しい地区からの要請に応えずに、以前のままの委員会構成活動などを行っていても強制は出来ないと考える理由がここにあります。
ガバナー補佐が新しい委員会構成にするよう説得よりも、むしろ理解を求めて地区としての統一を計る重責を荷っていると云えます。
字句の強い表現によるリーダーシップの発揮
◎男女混合クラブ
2004年版 ガバナーは地区の全てのクラブが男性及び女性の両方を会員に持つことを推進するよう奨励されている。
2007年版 ガバナーは地区の全てのクラブに対し、男女混合クラブを目指すよう推進することが奨励されている。
◎地区とロータリークラブによる他団体との協力
2004年版 他団体と協力することが出来る
2007年版 他団体と協力することが出来る、ただし以下の条件がある。
2004年版 合同プロジェクトの性格を一般の人々に伝達するという…
2007年版 合同プロジェクトの性質を広報するという
2004年版 他団体への継続的財政義務を引き受けないで、地区内の…
2007年版 他団体への継続的財政義務を引き受けないこと。
その代わりに地区内の……
このような例をあげれば数えきれない程の字句の変更、内容の変更が見られます。
興味のある方は、2004、2007年の手続要覧を見比べて下さい。
⑨ 東洋のロータリアンにより多く求められるもの
ロータリーの真髄 職業奉仕
このところ新聞誌上を賑わしているものに職業奉仕の欠如があります。
国際ロータリー定款 第4条 網領
第2 事業及び専門職の道徳的水準を高めること…ロータリアン各自が業務を通じて社会に奉仕するために、その業務を品位あらしめること。とあるように
ロータリアンとしての網領を尊重し受諾したからには、これに反する行動をとることなど考えも及ばないことです。
しかし問題は不祥事を起した会社の経営者にロータリアンのいたことでしょう。
今東洋では
○汚染米を横流しして、価格を吊り上げ、不当な利益を得る。
○蛋白質増量剤メラミンを牛乳に混入して、幼児に身体的危害を加える。
○賞味期限を改ざん表示して消費者を騙す。
○顧客の食べ残しを手つかずとは云え並べ直して他の客に供する。
○非衛生的な食品を販売する。
○生産地、生産者を嘘の表示をして消費者を騙す。
○偽ブランド商品を生産販売する。
等々数上げればキリがありません。
ロータリーの標語の項で述べた通り、良品、良質なものを提供して正貨を得るという、生産、流通体制が早くから確立した西欧と違って、それに倣って近代化を進めてきた、或は進めつつある東洋は、今こそRIの真髄とも云える職業を通じて社会に奉仕し、その職業の道徳的水準と品位を高めることが要求されていると思うのです。
私達は社会のいろいろな職業によって生かされています。裏を返せば、職業というのは「人を生かす業」です。ロータリアンだけでなく、一般の人々にもロータリアンのみが持つ、この「職業奉仕」の精神を広めることこそ、東洋のロータリアンに課せられた最重要課題だと思うのです。
元西ドイツ首相ヘルムート シュミット氏は21世紀は政治経済の中心は明かに北米から東アジア、或は太平洋地域に移りつつあると語っています。アジアのロータリアンの実力を発揮する年が2009年です。
経営者は針 社員は糸
日本なら誰でもが知っている二刀流の遺手、武芸者の宮本武蔵。13才の時に新当流 有馬喜兵衛門と勝負、勝を収め、29才で九州の巌流島で佐々木小次郎との決闘に勝利を収める迄の16年間に60回以上の勝負に負けたことのない武蔵も1645年正保2年62才でガンで亡くなります。
その彼が60才で書き始めた二天一流の兵法書「五輪書」の中でこんなことを云っ
ています。「兵の法を学ばんとおもはば、此書を思案して、師は針、弟子は糸となって絶えず稽古有るべき事也」満足な学問をしなかった宮本武蔵のこの含畜ある言葉は今の世の中にこそ学びたいものです。針を経営者、糸を社員に置き換えてみましょう。針が正しく運針されていなければ、それに続く糸も曲って縫い上がり、真直ぐな製品にはなりません。社長の経営方針が曲っていればそれに追う社員も同じように引きずられます。社員がそれを正そうとすると、社内告発という形をとり、その企業は倒産、或は致命的な打撃を受けます。広く世間に流通すれば国民の告発、不正な商品が不売運動が待っています。正しく、ロータリーの目指す職業奉仕の理想とするところと剣道の極意は一致するのです。
⑩ ロータリーとは人を作る場所
商いとは、企業とは、ロータリーとは金儲けの為にあるのではなく、人を育てるという共通点を持っています。私達が今まで社会から学んできたことは「人は石垣、人は城」組織は、会社は金儲けや繁栄を求めるだけのものではなく、人材を育てるということでした。
国民、社員に人材がなければ国は滅び会社は潰れます。
ロータリークラブもいろいろな奉仕活動と並行してロータリアンのみならず、世間の一人一人を正しく育てることが出来れば明るく住みよい社会を築くことが出来ると考えます。
それが出来るのは世界で「ロータリー」だけなのですから。
【参考文献】
五輪書 宮本武蔵、岩波書店 世界の宗教と教典、自由国民社
手続要覧2004・2007年版、故事ことわざ辞典、東京堂出版
読売新聞、ことわざ大辞典、小学館 中国の古典と名薯 自由国民社
日本食物史 樋口清之 柴田書店
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